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Sugarfields「言葉はメロディ」
ニューアルバム『何者にもならず』収録曲です。
日本語版『何者にもならず』と、
英語版 “Without Becoming” は本日同時発売。
フルMVとアルバムの配信リンクはこちら。
world.thesugarfields.chatgpt…
#Sugarfields
#言葉はメロディ
#何者にもならず
#WithoutBecoming
『VIVANT』を観て、
「中国を悪役として描くなんてけしからん」
という批判が出ているらしい。
なんというか。
ドラマを観るのに、ずいぶん忙しい人たちである。
誰が裏切るのか。
この人は何を隠しているのか。
次はどうなるのか。
私はそのへんで手いっぱいなのだが、
国際関係の点検までしている。
*
もちろん、国や民族の描き方について、
批評することはあっていい。
あまりにも雑だったり、
人間が一人も描かれていなかったりすれば、
私だってつまらないと思う。
観ていて、どうしても引っかかる。
そういう人がいるのもわかる。
嫌だと感じたことまで、
否定するつもりはない。
ただ、
「この国を悪役にしたから、けしからん」
という話なら、
中国の抗日映画にも、
いくらでも文句が言えてしまう。
悪役の国籍によって、
表現の自由が伸びたり縮んだりする。
ずいぶん便利な自由である。
*
中国の立場を代弁するメディアが、
中国の描かれ方に文句を言う。
それは、まあ、仕事なのだろうと思う。
でも、日本で普段、
「表現を萎縮させるな」と言っている人まで、
同じ調子で怒っているのを見ると、
ちょっと待ってくれ、とは思う。
その基準で、
本当に映画やドラマを観続けられますか。
日本人を悪役にしてはいけない。
中国人もいけない。
アメリカ人も、ロシア人もいけない。
悪役を引き受けてくれる国がない。
宇宙人に頼むしかなくなるが、
宇宙人だって、
毎回侵略しに来たことにされて、
迷惑しているかもしれない。
*
そもそも、
物語に登場する悪い人は、
その国の全国民の代表なのだろうか。
日本のサスペンスドラマでは、
毎週のように日本人が人を殺している。
だからといって、
日本人への偏見を助長するな、
とは、普通は言わない。
あの人が、あの事情で、
あんなことをしてしまった。
そこを観ている。
ところが国境を越えた途端、
一人の悪役が、
急に国民全員を背負わされる。
*
私が気になるのは、
中国を好きか嫌いかではない。
作品を観る前から、
褒める場所と怒る場所が決まっている、
その感じである。
味方が悪く描かれたら怒る。
敵が悪く描かれたら頷く。
それでは、どんな物語を観ても、
自分がすでに知っている話しか出てこない。
私は、もう少し驚きたい。
悪いと思っていた人にも事情があったり、
正しい顔をした人が、とんでもないことをしたり。
そういうものを観るために、
わざわざドラマを観ている。
せめてテレビの前くらい、
所属している陣営を休んでもいいのではないか。
続きを観たいのである。
声明文を読みたいわけではない。
私は、育ちがいい。
こう書くと、
実家にグランドピアノと噴水がありそうだが、
そういう話ではない。
人を差別してはいけない。
国籍や宗教で決めつけてはいけない。
みんな仲良くしたほうがいい。
そういうことが、
子供の頃から、深く染みついている。
親や学校の教育は、
その点では悪くなかったんだろう。
*
地元でも、外国から来たのかなと思う人を
以前より見かける気がする。
会えば挨拶をする。
特に身構えることもない。
私の中の「みんな仲良く」は、
今日も正常に作動している。
ただ、最近は、
正常に作動しすぎているのではないか、
とも思う。
「仲良くすればいいじゃない」
それで、考えるのを終えてしまう。
感じはいい。
しかし、感じがいいまま、
何も考えていないことがある。
*
私が気持ちよく挨拶できることと、
地域に受け入れの準備があることは、
別の話だ。
言葉は通じるのか。
住む場所や働く環境はどうか。
学校や地域に無理はないか。
生活習慣の違いで困ったら、誰が間に入るのか。
玄関で「どうぞ」と言うのは簡単だ。
布団はあるのか。
朝ごはんは誰が作るのか。
そこを尋ねた人が、
歓迎する気のない人とは限らない。
泊まってもらうことを、
具体的に考えているのかもしれない。
*
先日、移民について、
かなりきつい言葉で心配を述べる投稿を見た。
その言い方に、
すべて賛成するわけではない。
でも、引っかかった。
自分が普段なら通り過ぎてしまう問題を、
少し立ち止まって考えた。
一方で、その発言を批判する、
差別や排除のない場所を願う投稿も見た。
言っていることは、わかる。
私も、そうあってほしい。
ただ、
そこから先の話を聞きたかった。
その授業は、
私もかなり真面目に受けてきた。
ノートも取った。
心にも刻んだ。
そろそろ次のページを開きたい。
*
穏やかな言葉を読んで、
うなずくことがある。
きつい言葉に引っかかって、
考え始めることもある。
少し、居心地が悪い。
でも、その居心地の悪さまで、
なかったことにはしたくない。
言い方への採点を済ませても、
そこで持ち出された問いは残る。
何を心配しているのか。
その心配は事実に合っているのか。
では、どうすればいいのか。
話は、そこから進められる。
*
「仲良く暮らしましょう」
私も、そう思う。
だから、そのために必要な、
あまりきれいではない話もしたい。
お金の話。
人数の話。
ルールの話。
できることと、できないことの話。
善意で迎えて、
あとは現場にお願いします、では、
迎えられた人だって困る。
優しい気持ちを、
実際に役に立つところまで持っていきたい。
*
私は、けっこう育ちがいい。
だからこそ、
自分の善意に安心しすぎないようにしたい。
同じように育ちのいい皆さんとも、
もう一歩先を考えたい。
「みんな仲良く」に、うなずいたあとで。
さて、布団は何組あるだろう。
SNSで、村上龍について書いている人を、
ものすごくたくさん見かけた。
こんなにもいるのか。
どうもSNSというのは、
若い人たちの場所だという印象が抜けない。
しかし、私と同世代のおじさんたちが、
スマホを持って集合している場所でもあるらしい。
普段は別々の話をしているので、
同じ教室にいたことに気づかなかった。
*
私もご多分に漏れず、
十代の頃、村上龍を読みふけっていた。
村上春樹も、ほとんど読んでいる。
ただ、自分の血や骨になっている言葉となると、
村上龍のものが、ずいぶん多い気がする。
当時、私は「ヒューマンビーングス」というバンドをやっていた。
好きなことが何もやれない。
嫌なことなら平気でやれる。
お前らみんな奴隷、奴隷。
そんなことを大声で歌っていた。
完全に村上龍である。
バンド名では人類を名乗っているが、
思想的には、かなり一人の作家に所属していた。
*
その後、ニーチェを読んだ。
難しい哲学者だと聞いていたのに、
妙に読みやすかった。
「あれ。これ、知ってるぞ」
村上龍を読んでいるうちに、
自分の中にできていた感覚が、
そこにも書かれているように思えた。
もちろん、二人が同じことを言っている、
とまで断言するつもりはない。
ただ、私には、
村上龍のいる場所へ、
ずっと昔に来ていた人がいるように感じられた。
哲学の本を開いたら、
行きつけの店の常連がいた感じである。
それで、ニーチェも好きになった。
*
今でも年に一度くらい、
すごく高級なホテルのバーへ、
一人で飲みに行きたくなる。
素敵な女性と、
一夜を共にしたくもなる。
こちらは、年に一度という意味ではない。
そういう世界への憧れが、
今も、ちゃんと残っている。
背伸びもある。
見栄もあるだろう。
若い頃に読んだ小説の読みすぎも、
かなりあると思う。
それでも、
自分が惹かれるものを前にして、
「そういうのは、もういいです」
と、わかった顔で引き下がりたくない。
本当にもうよくなったなら、それでいい。
でも、まだ欲しいのに、
欲しくないことにしてしまうのは、
どうも気に入らない。
*
十代の頃は、
世間に向かって「奴隷」と歌っていた。
今は、その歌詞が、
ときどき自分のほうへ帰ってくる。
好きなことは、
面倒だからと後回しにする。
嫌なことは、
仕方ないからと手際よく済ませる。
ずいぶん、できるようになった。
十代の私が見たら、
マイクを向けてきそうである。
*
SNSに流れてくる、
村上龍についての言葉を読んでいると、
忘れていた自分に何度も出会う。
ああ、これも。
この感じも。
ここから来ていたのか。
もう誰に教わったかも忘れて、
自分の考えとして使っていたものの中に、
村上龍がいる。
影響というより、
今では支えと呼ぶほうがしっくりくる。
好きなものの前で、
妙に物分かりよくならずに済んでいるのは、
この人を読んだからかもしれない。
*
それにしても、
同じようなおじさんが、
こんなにたくさんいたとは。
みんな、それなりの年齢になり、
それなりの用事を済ませながら、
まだ、あの頃の本を身体の中に持っている。
今度、ホテルのバーで、
一人で飲んでいる同世代の男を見かけたら、
少し気になってしまいそうだ。
あなたもですか。
声はかけない。
お互い、女性を待っている顔くらいは、
していたい。
Sugarfields /『何様』【Official Music Video】
元動画は➤youtu.be/s8mXW-DKMD4
シュガーフィールズ/原朋信 retweeted
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いい音にしたいのに、なぜ歪ませる?
|音楽家が作ったAMATERAS Transformer Saturator
youtu.be/ij3_mPIAIbg
きれいに録音するためにお金を使い、
そのあと、少し歪ませるために、またお金を使う。
音楽を作る人は、なぜこんなことをするのか。
声の艶。ベースの密度。音の手触り。
アナログ機材の「トランス」に惹かれ、
自分でプラグインまで作ってしまった音楽家の話です。
▼AMATERAS Transformer Saturator|音の変化を聴く
world.sugarfields.com/plugin…
文・Sugarfields 原朋信
AMATERAS JAPAN / Cafe au Label
#音楽制作 #DTM #AMATERAS #サチュレーション
Sugarfields /『バランス』【MV full】 #shorts
元動画は➤youtu.be/UmiWvakZ640
新潟のテレビが、ちょっと楽しみになった。
NSTが、ReHacQの高橋弘樹さんと組むという。
おお。
そっちへ行くのか、NST。
*
私は今、政治や経済について何か語るなら、
まずReHacQくらい観ておこうよ、と思っている。
右とか左とか以前に、
政治や経済の中でうごめく「人」を見せる。
それが、高橋さんのうまさだと思う。
もちろん、観れば正解がわかるわけではない。
むしろ、
「この人、こんなこと考えてたのか」
「嫌いだったけど、この話はわかるな」
と、自分の頭の中が少し散らかる。
その散らかり方が、いい。
いつもの人が、いつもの調子で、
いつもの結論にたどり着く。
日曜の朝に「サンデーモーニング」を観ながら、
老いぼれてくのはごめんである。
私はもっと、知らない話が聞きたい。
即答できずに、少し黙る。
言いかけて、言い直す。
思わぬところで、笑ってしまう。
そういう間や呼吸ごと、
人の話を聞きたい。
血圧だけ上げて、
考えは据え置きというのも、もったいない。
*
そんなReHacQと、
地元・新潟のテレビ局が組む。
これが、うれしい。
新潟には、米も酒も雪もある。
そのへんは、もう全国に伝わっていると思う。
そろそろ、
ここで何を考えている人がいるのかも、
もっと伝わっていい。
工場のおじさんが、
とんでもなく面白い経済の話をするかもしれない。
商店街の一軒から、
日本の未来が見えるかもしれない。
私だって長岡で、
音楽を作ったり、音響機材を作ったりしている。
米は作っていない。
*
地元のテレビ局が、
新しい面白さに手を伸ばす。
それだけで、
住んでいる場所の見え方まで、
少し変わる気がする。
「新潟も、なかなか面白いでしょう」
と言える日を待つより、
自分が先に面白がっていたい。
とりあえず、チャンネル登録した地元の未来。
1本目から高橋さんの才能が溢れている。
これは、なかなかいい。
ReHacQ新潟チャンネル:
youtube.com/@rehacq-niigata?…
Sugarfields /『バランス』【MV full】 #shorts
元動画は➤youtu.be/UmiWvakZ640
シュガーフィールズ/原朋信 retweeted
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「高市やめろ!」
と叫んでいる音楽関係者を、また見かけた。
言いたいことがあるのはわかる。
政治に腹が立つことくらい、私にもある。
でも、投稿を読み終えても、
この人がどんな社会にしたいのかは、
わからなかった。
辞めたあと、誰に、何をしてほしいのか。
何が変われば、自分たちの平和を守れると思っているのか。
そこを、もう少し聞いてみたい。
*
もちろん、批判するのに、
次の総理大臣まで用意する義務はない。
料理が焦げていたら、
自分で作り直せなくても「焦げています」と言っていい。
それに対して、
「では、あなたが厨房に立ってください」
と返す店は、だいぶ面倒くさい。
ただ、何度も
「店長やめろ!」という話しか聞けないと、
この人は何を食べたいのだろう、とは思う。
*
反対する言葉は、強い。
短く言える。
仲間も集まりやすい。
「そうだ、そうだ」と声が重なると、
自分たちが世の中の中心にいるような気持ちにもなるのだろう。
でも、同じものが嫌いな人たちが、
同じ未来を望んでいるとは限らない。
いざ、
「では、どうしましょう」となると、
さっきまでの大合唱が、
急に小さくなることもある。
反対しているあいだは見えなかった違いが、
そこで見えてくる。
私は、むしろその話を聞きたい。
*
音楽なら、
「あいつの曲は駄目だ」と言ったあとに、
自分の曲を聴かせることができる。
すると、わかる。
ああ、この人は、
こういう音を美しいと思っているのか。
好きになるかどうかは別として、
その人の大切にしているものに触れられる。
政治の話でも、
そういう瞬間が、もう少しあってほしい。
誰が嫌いかだけでなく、
何を大切にしたいのか。
*
同じ価値観で固まった狭い界隈の中で、
安心して「やめろ!」と声を上げる。
それが、
「俺たちは今も、あの頃のままカッコいい」
と仲間同士で確かめ合うための
合言葉のように聞こえてしまうことがある。
若い頃、ロックが好きで、
偉そうなだけの大人をバカにしていた人が、
いつしか、その大人によく似てくる。
自分では、
今も反抗しているつもりなのに。
誰を引きずり下ろしたいかの先に、
どんな暮らしのできる社会を望んでいるのか。
それを語れば、
今度は自分の考えも批判される。
「それは無理だ」
「そのやり方では困る人がいる」
そう言われる場所に、
自分も立つことになる。
その覚悟があるなら、
ようやく話が進みそうな気がする。
*
反対しているものは、よくわかった。
そろそろ、
望んでいるものの話を聞きたい。
音楽の話をするときには、
あんなに豊かな言葉を持っている人なのだから。
イーロン・マスクのすごいところは、
十年先の夢を見せて、
今日のお金を集めてしまうところだと思う。
こう書くと、だいぶ怪しい。
でも、株価とはもともと、
未来への期待にも値段をつけるものだ。
「今、これだけ儲かっています」
だけではなく、
「この先、こんな世界をつくります」。
まだ来ていない未来に、
今日の財布が開く。
そもそも投資とはそういうもの。
*
ただ、大きなことを言うだけなら、
居酒屋にも人材は豊富にいる。
すごいのは、その夢の組み立て方だ。
電気自動車。
エネルギー。
AI。
ロボット。
宇宙。
別々に見える話を、
一つの未来の景色としてつなげて見せる。
すると、
「そんなこと、できるわけがない」が、
「そうなるなら、今これが必要なのか」
に変わる。
夢に、順番が生まれる。
*
そこへ、お金が集まる。
人が集まる。
工場ができる。
開発が進む。
実現したから、お金が集まる。
それもある。
でも、その順番だけではない。
実現すると思わせることで、
実現するためのお金を集める。
夢を見せること自体が、
すでに実現の工程に入っているのだ。
もちろん、語った未来が、
全部予定どおりに届くわけではない。
それでも、本当に動くものにしてしまう。
ロケットは、本当に戻ってきて、立った。
車は宙を舞って、着地した。
だから、次の夢にも説得力が生まれる。
*
「夢みたいなことを言うな」
という言葉がある。
でも、まだ存在しないものは、
最初は全部、夢みたいな話だったはずだ。
大切なのは、
夢を語るか、現実を見るか、ではなく、
その間に何を積み上げるかだと思う。
壮大な夢の続きが、
翌朝の具体的な仕事になっている。
そこまで来ると、
居酒屋の話も侮れない。
お会計のあとが、本番なのだ。
シュガーフィールズ/原朋信 retweeted
このイーロン・マスクのプレゼン、「空飛ぶ車です」って言う前に、逆さまに走らせて空中で回転させて着地させちゃう。言葉より先に見せるのがずるい。Steve JobsのMacBook Airのプレゼンに匹敵するような伝説的なプレゼンだ。
空飛ぶクルマの動画を見た。
壁をのぼり、空中で回転し、
噴射しながら宙に浮いて、着地する。
「AI動画を見せられてもねえ……」
私も、そう思ってしまった。
*
不思議な時代になった。
想像したことが何でも映像になるので、
本当に実現したことまで、
想像のほうへ片づけてしまう。
こっちはスマホを指で滑らせながら、
「はいはい、未来ね」
と通り過ぎようとしていた。
その未来を、本当に作っている人がいた。
*
『かもめのジョナサン』を思い出した。
食べるためだけでなく、
飛ぶことそのものの可能性を追いかけるカモメ。
もっと速く。
もっと自由に。
まだ誰も知らない飛び方で。
ああ、私たちは、
『かもめのジョナサン』と同時代に生きている。
*
もちろん、空飛ぶクルマで
スーパーへ行く日は、まだ遠いだろう。
卵が無事かも気になる。
でも、今はそこではない。
誰かが、本当に飛ばした。
私はいつの間にか、
空飛ぶクルマよりも、
それを見て驚けなくなりかけていた自分に驚いていた。
「そんな夢みたいなこと」と
ジョナサンを笑う群れの、
一羽になるところだった。
まだ、こんなことが起きる。
指を止めて、
もう一度、ちゃんと見た。
蕎麦を食べたい。
ときどき、そういう欲望が猛烈にやってくる。
お腹が空いた、とは少し違う。
蕎麦のなんらかの成分を、
身体全体が欲している気がする。
何の成分かは知らない。
とにかく、つゆにつけて、ずるっとすすりたい。
家で食べるなら、
私はセブンイレブンの乾麺が気に入っている。
いろんなメーカーのものを茹でたけれど、値段とおいしさを考えると、結局ここに戻ってくる。
問題は、おかずだ。
*
蕎麦には天ぷら。
わかっている。
とてもよくわかっている。
しかし、
コンビニで天ぷらはなかなか手に入らない。
大きめのスーパーに行けば惣菜売り場にあるけれど、
天ぷらは揚げたてからの落差が大きい。
さっきまで、さぞおいしかったのだろう。
そんな過去の栄光を感じながら食べることになる。
では、自分で揚げるか。
私は蕎麦を茹でたかっただけである。
天ぷらの調理のハードルの高さよ…。
*
考えてみると、
蕎麦だけでは少しクールすぎるのだ。
合間に、油っぽいものが欲しい。
油をひと口食べて、蕎麦に戻る。
するとまた、蕎麦がうまい。
この往復が欲しいのだ。
それならソーセージを焼けばいい。
ハンバーグでもいい。
焼肉なんて、油も旨味も申し分ない。
ところが、それでは違う。
ソーセージを食べると、口の中がソーセージになる。
ハンバーグを食べると、夕食がハンバーグになる。
焼肉にいたっては、蕎麦に戻っても、
焼肉の記憶しか残らない。
*
私は脂が欲しいのであって、
主役を交代してほしいわけではない。
今日、会いたかったのは蕎麦なのだ。
そこへ肉がやってきて、
「俺様が来てやったぜ」
と真ん中に座る。
うまい。
うまいのだが、今日はあなたの会ではない。
その点、天ぷらはたいしたものだ。
油の満足感があって、
茄子なら茄子、海老なら海老のおいしさもある。
それでいて、蕎麦をもうひと口すすりたくなる。
ちゃんと蕎麦に話を戻してくれる。
天つゆと蕎麦つゆに、
醤油と出汁という共通点があるのも大きいのだろう。
長年、隣に座っているだけのことはある。
*
いま気になっているのは、
カリッと焼いた油揚げに、
大根おろしという組み合わせだ。
醤油を少し。
香ばしさと油っぽさがあって、
大根おろしでさっぱりもする。
これなら、蕎麦の隣にいてくれそうだ。
次は油揚げを買っておこう。
ニーチェの『この人を見よ』は、少し切なかったと書いた。
でも、この本には、
ずっと好きな話がある。
葡萄屋のおばちゃんの話だ。
*
露店で葡萄を売っている老婆が、
ニーチェのために、最も甘い房を選んでくれた。
ちゃんと選び終えるまでは、
気が済まなかったという。
そして、こう続ける。
「哲学者たるものはざっとこれくらいにならなけりゃあ駄目である」
哲学の話をしていたはずなのに、
いきなり葡萄が出てくる。
しかも、哲学者の合格基準として。
でも私は、ここに、
哲学をする意味のようなものを感じていた。
*
おばちゃんは、ニーチェの本を読んでいない。
目の前のひげのおじさんが、
どれほど人間について考えているかも知らない。
それでも、
この人には、いちばんおいしい葡萄を渡したい。
そう思わせる何かが、
彼にはあったのかもしれない。
*
考えれば考えるほど、
人間の見栄や、弱さや、ずるさが見えてくる。
それだけなら、
人間が嫌いになって終わることもある。
何を言われても、
つい、その裏を読む。
ニーチェを読んでいた若い私にも、
そういうところはあったと思う。
人間を見抜くことと、
人間を理解することの違いが、
まだよくわかっていなかった。
*
もっと深く考えていくと、
見えてくるものも変わってくる。
なぜ、その人は見栄を張るのか。
なぜ、そんな言い訳が必要なのか。
何を怖がり、何を守ろうとしているのか。
そして、
自分だって、その人間の一人なのだ。
そこまでわかってくると、
人に向ける眼差しも、
少し変わる気がする。
弱さに気づいても、
すぐに指をささなくなる。
相手がうまく言えないことを、
少し待てるようになる。
そういうものは、
黙っていても、どこかに出る。
声や、表情や、
葡萄を選んでもらっているときの佇まいに。
*
私は、実際のニーチェを知らない。
気難しい日もあっただろうし、
いつも穏やかな人だったと言いたいわけでもない。
ただ、彼がこの出来事を喜び、
「哲学者たるもの」と書いたことが好きなのだ。
考え抜いたことが、
その人の生き方や、
人との接し方にまで滲んでくる。
本を一冊も読んでいない人にも、
何かが伝わる。
彼もそこに、
哲学者として大切なものを感じていたのではないか。
*
哲学のその先に、
葡萄屋のおばちゃんが、
こちらのために甘い房を探してくれるような場所がある。
私は、そこに惹かれたのだと思う。
ずいぶん遠くまで考えてきた人が、
目の前の人とは、
なんだか温かいやりとりをしている。
哲学者たるもの、
ざっとこれくらいにならなけりゃあ駄目である。
笑って読んだ言葉なのに、
歳を取るほど、合格基準が高くなる。
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